急性ウイルス性肝炎:肝細胞の炎症による肝機能異常
- 肝臓病の種類と原因と治療法
急性ウイルス性肝炎の特徴と原因
「肝炎(カンエン)」という病気は、肝細胞に炎症が起こり、正常に働くことができなくなる病気です。急性ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスが原因で起こる肝炎で、日本で見られるのは、おもにA型、B型、C型の3種類です。
A型急性ウイルス性肝炎は、若い患者さんが多いのが特徴で、これは若い人ほどA型肝炎に対する免疫(ウイルスや細菌などが体内に侵入した際に、排除して自分の身体を守ろうとする働き)を持っていないことと関係しています。また、A型肝炎は「経口感染(ウイルスに感染した動物由来の肉や、糞便で汚染された水などの経口摂取などからの感染)」が主な感染経路で、生水や生の食べ物を介して感染するので、発病する患者数は春から夏にかけて多くなります。これは、日本人が生ものを好んで食べるシーズンと一致しており、3月が感染のピークです。B型、C型の急性ウイルス性肝炎は、ともに血液感染(注射や輸血、歯科治療といった医療行為の他、外傷による出血が目など粘膜に触れるなどの感染)で感染します。
急性ウイルス性肝炎の症状
A型・B型・C型のどのタイプの急性肝炎も、初期の病状の段階では、大きく分けて次の3つの症状が現れます。下記の3つの症状に続いて、尿の変化や黄痘などの症状が現れますが、ウイルスの感染から回復まで、一般的には、ほぼ下記のような経過をたどります。
- 感冒様症状: 38度前後の発熱、喉(ノド)の痛み、関節痛、筋肉痛など
- 消化器症状: 食欲不振、吐きけ、嘔吐(オウト)など
- 全身症状: 体の倦怠感(ケンタイカン)、元気が出ないなど。
- 潜伏期:肝炎ウイルスに感染してから発病するまでの期間です。長さなどはA型、B型、C型それぞれに異なります。
- 前駆期:発病して初期症状が出る期間です。個人差はありますが、先に挙げた感冒様症状、消化器症状、全身症状がみられます。
- 黄疸期:「黄疸(オウダン:身体にビリルビンが過剰にあることによって眼球や皮膚といった組織や体液が黄色く染まる状態)」が現れてから消えるまでの期間です。初期症状が治まってくると尿が紅茶の色のように濃くなり、その後、黄痘が出始めます(出ない患者さんもいます)。この時期になると食欲が戻り、よく食べられるようになります。
- 回復期:黄痘が消えて、肝機能が回復するまでの期間です。黄痘が出たあとは特別な症状もなく、しだいによくなります。
このように、急性ウイルス性肝炎、とくにA型とB型の場合は、慢性(急激な症状の変化ではなく、症状が長引く状態)に移行することもなく、ほとんどが完治します。なかには劇症化するものもありますが、稀(マレ)なケースです。
感染
経路 |
ウイルス |
潜伏
期間 |
キャリア |
慢性化 |
特徴 |
経口感染 |
A型
(HAV) |
2〜6週 |
なし |
なし |
海外での感染が多く、海外旅行者が感染してくる肝炎の80% |
E型
(HEV) |
2〜9週 |
なし |
なし |
ネパールやインド、アフリカを中心に発生。日本では非常にまれ |
血液感染 |
B型
(HBV) |
1〜6ヵ月 |
あり |
あり |
成人してからの感染では、特別なケースを除いて一過性の急性肝炎で治る。キャリアの人が発症すると慢性化することがある |
C型
(HCV) |
2〜16週 |
あり |
あり |
ウイルス自体の感染力lま弱いので、母子感染、性行為感染は少ない。C型急性肝炎の人の6〜8 割は慢性肝炎に移行している |
D型
(HDV) |
1〜6ヵ月 |
あり |
あり |
単独では発症しないで、B型肝炎ウイルスと同時感染するか、B型肝炎キャリ戸に感染する。日本では非常にまれ |
急性ウイルス性肝炎の診断方法
急性ウイルス性肝炎にかかると、炎症で肝細胞が壊されるため、肝機能検査をすると、肝細胞の障害を示すGOT、GPT、LDH、ビリルビンなどが上昇しています。だから、GOTやGPTは正常値の20倍以上にもなることがありますが、上昇は一時的なもので、1〜2か月で正常に戻ります。ウイルス・マーカーも診断に役立ちます。ウイルス・マーカーに関しては当サイトの別ページで解説しております。
急性ウイルス性肝炎の治療方法
急性ウイルス性肝炎の治療は、入院して安静にするのが一般的ですが、薬物療法による治療はあくまでも補助的なものです。自然に治ることが多い急性肝炎の場合は、肝臓(カンゾウ)が再生能力を十分に発揮できるように、環境を整えることが治療のポイントです。
- 【参考】「急性肝炎は必ず入院しなければいけないか?」について:日本では、急性肝炎と診断されると、入院して治療を行うのが一般的です。ところが、アメリカなどでは、原則として急性肝炎は外来で治療します。当然のことながら、肝不全(カンフゼン)の症状が強ければ入院して治療することになりますが、通常の経過をたどるような急性肝炎では、入院することはありません。これは、日本と外国との保険システムの違いも関係していますが、実は急性肝炎というのは、入院しても自宅にいても治療成績には差がないため、自宅で安静を守り、経過観察を行うだけでよいと考えられているからです。日本の場合は、大事をとって入院し、そのうえで経過観察を行うのが慣例となっています。
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