劇症肝炎:肝炎の急激な悪化により重症化した肝臓病
- 肝臓病の種類と原因と治療法
劇症肝炎の特徴と原因
急性肝炎になると肝細胞の破壊が起こり、肝機能は著しく低下しますが、ほとんどの場合は回復して、肝臓(カンゾウ)はまた正常に働き始めます。しかしながら、ごく少数の症例ですが、肝炎(カンエン)の症状が急激に悪化して重症になることがあります。このような肝炎を「劇症肝炎(ゲキショウ・カンエン)」といいます。
この劇症肝炎は、肝臓病のなかでも死亡率はきわめて高く、70〜80パーセントの人が死亡しています。つまり、助かるのは10人のうち2人か3人ということになりますね。しかしながら、わが国の「劇症肝炎」の患者さんの数は年間2,000例ぐらいで、それほど多くはありません。急性肝炎から移行する割合も、全体の約1パーセント程度です。
そして、劇症肝炎には、「急性型・劇症肝炎」と「亜急性型・劇症肝炎」の2つのタイプがあります。急性型は、急性肝炎の発病後すぐに強い肝障害が起こるケースを呼び、亜急性型は、発病後2〜3週間してから症状が極端に悪化していくケースを呼びます。
劇症肝炎は、薬物療法の副作用によって起こることもあります。しかしながら、劇症肝炎の多くは肝炎ウイルスによるものです。具体的な原因には、急性B型肝炎の約1パーセント弱に劇症肝炎が発生していることがわかっています。急性A型肝炎はB型肝炎よりも劇症化する頻度が低く、約0.1パーセントと言われています。これに加え、C型肝炎は、かつては劇症化する頻度が高いとされていました。しかしながら、急性C型肝炎患者に劇症肝炎が認められないため、最近では劇症化しないと考えられるようになりました。
そして、劇症肝炎の起こり方は、電撃的に症状が悪化する「急性型」はどちらかと言えば少なく、通常の急性肝炎からじわじわと重症になっていく「亜急性型」が多いようです。同じように急性肝炎を起こしても、ある患者さんは回復し、他のある患者さんは劇症肝炎になってしまうのか、その理由についてはいろいろ説がありますが、まだ完全には解明されていません。
劇症肝炎の症状
劇症肝炎の初期段階の症状は急性肝炎と同じですが、どれも急性肝炎より強く急激で、「黄疸(オウダン:身体にビリルビンが過剰にあることによって眼球や皮膚といった組織や体液が黄色く染まる状態)」の症状も強く現れます。その上さらに、急性肝炎では黄痘が出るころには初期症状が治まって快方へ向かいますが、劇症肝炎では症状は治まるどころか、いっそう悪くなります。
劇症肝炎で特徴的なのは、意識障害の症状が現れることです。これには、目がトロンとしていたり、人の名前を間違えてしまったり、簡単な計算ができないなどの軽いものから、呼んでも反応せずに深い昏睡(コンスイ)に陥る重いものまで、いろいろな程度があります。また、全身の血管から出血が起こりやすくなるため、歯茎(ハグキ)から出血したり、皮膚に赤い斑点ができたりすることもあります。
劇症肝炎の診断方法
劇症肝炎は、再生が間に合わないほど急激に、また広範囲に肝細胞が破壊される病気です。そのために、強い肝障害が現れ、GOTやGPTの値は著しく上昇します。その数値は、1万単位以上まで増加するケースもありますが、さらに病気が進むと、数値は急速に低下します。これは、肝細胞がすべて破壊されてしまい、血液中に流れ出るGOTやGPTがなくなってしまったためと考えられます。肝臓が機能を果たせなくなると、血液凝固の因子の生産が悪くなり、出血しやすくなってきます。これに加え、肝臓でアンモニアが解毒(ゲドク)されずに血液中のアンモニア濃度が高まり、「肝性脳症(カンセイノウショウ)」による意識障害が起こります。一般に劇症肝炎は、プロトロンビン時間の延長と、意識障害がみられることで診断がつきます。
劇症肝炎の治療方法
劇症肝炎の治療には、当サイトの肝臓病治療で説明してきた、ありとあらゆる方法が行われるといっても過言ではありません。重い意識障害には、血中のアンモニア濃度を抑える治療が行われ、過剰な免疫反応(ウイルスや細菌などが体内に侵入した際に、排除して自分の身体を守ろうとする働き)を抑えたり、肝細胞の再生を促すため、それぞれ薬が投与されます。
また、近年においては、体内の老廃物を取り除くために、人工補助装置を使って交換輸血や血漿交換(ケッショウ・コウカン)が行われます。そのほか、インターフェロンによる治療法もありますが、劇症肝炎に対してはまだ試験的に使われている段階です。有効な治療法としては肝移植があります。欧米では積極的に行われていますが、日本では行われていません。
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- 【参考】「血漿交換」について:血漿交換(ケッショウ・コウカン)というのは、肝臓の働きが悪くなったために血漿中に毒素がたまり、そのままでは死亡してしまうため、血漿だけを健康なものと交換するものです。
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